ベテランの面接官でも、たびたび起こってしまうという入社後の採用ミスマッチ。企業側、応募者側、どちらにとってもダメージになり、時間や労力、コストが無駄になってしまいます。自社に合う人材を見抜くコツというのは、はたしてあるのでしょうか?
企業の採用コンサルティングを行っている心理カウンセラー・朝妻秀子先生は、「VAK」というテクニックを導入すると採用ミスマッチを減らすことが可能だといいます。
<プロフィール>
朝妻秀子(あさづま・ひでこ)
株式会社東京・ビジネス・ラボラトリー代表取締役。大妻女子大短期大学英文科卒業後、メーカーに勤務し、2年ほどで寿退社。結婚後、男の子と女の子の2児の母親となるが、子育てに悩み始める。39歳にして初めて心理を学び始める。その後、心理カウンセラーとして活躍。心理学と企業経営の橋渡しがしたいと起業を決意し独立、株式会社東京・ビジネス・ラボラトリーを設立。
年間1000時間以上の個人のカウンセリングを初め、防衛省の部外カウンセラー、大手企業を初めとし多くの企業のメンタルヘルス顧問として活動。現在は、カウンセラーの育成にも力を注いでいる。保有資格は、一般社団法人全国心理業連合会認定プロフェッショナル心理カウンセラー上級、NLP国際認定トレーナー、米国ハワイ州NPC法人ホームメンタルカウンセラー協会認定アートセラピスト。
・「VAK」テクニックとは?
・10分の会話でできる「VAK」タイプ判別法
・心理学による採用コンサルティングとは
・採用ミスマッチとディスコミュニケーションを防ぐVAK活用法
・朝妻先生の人事コンサルティング
「VAK」テクニックとは?
ーー心理学のテクニックをビジネスの場面で活用すれば、さまざまなメリットがあるとうかがいました。どんな手法なのですか?
「NLP」という心理療法があります。「NLP」とは、「Neuro Linguistic Programming(神経言語プログラミング)」の頭文字をとった略称。そのなかのモデルとして活用されているのが、「VAK」という手法です。
「VAK」とは五感で感じとる感覚を、「Visual(視覚)」と「Auditory(聴覚)」と「Kinestic(身体感覚)」の3タイプに分類したもの。これを活用することでコミュニケーションを円滑にすることができます。
◆「V(Visual)」 → 視覚
◆「A(Auditory)」 → 聴覚
◆「K(Kinestic)」 → 身体感覚
普段私たちがさまざまな体験をするとき、目を使って情報を取り入れたり、耳を使って話を理解しようとしたり、体の感覚で暑いとか寒いとか美味しいとかを記憶したりしています。また自分が体験したことを誰かに伝えるときも、その蓄えた感覚を取り出して自分のなかで再現し、話を伝えています。
例えば、「昨日の夜は何を食べましたか?」と質問されたら、昨夜の光景を思い浮かべたり、聞こえていた音を思い出したり、味を思い出したり、五感で感じたものを再現して人に伝えますよね。つねに私たちは情報をインプットするときも、アウトプットするときも、「見たり、聞いたり、感じたり」の五感を使っているのです。
そして、どの感覚をよく使っているかには個人差があります。誰もが五感を使っているのですが、視覚の情報を取り入れるのが得意な方、聴覚が得意な方、身体感覚が得意な方というタイプにわかれることが心理学的に分かってきました。
ーー「VAK」をビジネスに取り入れると、具体的にどんな効果があるのでしょうか?
それぞれのタイプに得意・不得意の部分があることを社員の皆さんが深く理解することで効果があります。
【Vタイプの特徴】
ものごとを視覚で捉えるのが得意なので、相手の発言など視覚化して記憶します。
瞬時にイメージ化して、「この人はこういうことを言いたいのだろうな」と理解するのが得意で、「頭の回転が速い、レスポンスが速い」と言われるようなタイプです。多くの情報をいっぺんに処理する力が高いのですが、一方で早とちりが多かったり、意見もコロコロ変わりやすかったりします。話し方は、早口な人が多いです。
【Aタイプの特徴】
Aタイプは、聴覚的な情報を操作するのが得意。ものごとを論理的に考えて、説得力のある話し方ができます。しかし言葉にこだわりすぎてしまい、一つ分からないことがあると話が進まず、他のタイプの人から見ると「少し理屈っぽい」と思われることも。
【Kタイプの特徴】
Kタイプは、身体感覚でものごとを捉えるので、じっくり自分のなかで咀嚼して判断する人です。3タイプのなかでは一番反応や話し方がゆっくり。体感覚でアウトプットをするので、違うタイプの人には話が理解されにくい傾向があります。
しかし、しっかりと受け止めてから返事をするので、一度決めたら揺るがない誠実性もある人です。
10分の会話で分かる「VAK」タイプ判別
ーー応募者や同僚がどのタイプなのか、判別するにはどうすればいいでしょうか?
「VAK診断用テスト」に解答してもらい判別する方法もありますが、10分くらいの会話をしながら相手を観察することで、かなり正確にタイプ判別できます。その一つが、視線の動きです。
【Vタイプの視線】
人が映像を浮かべてものごとを考えているときは視線が上に向きます。考えごとをするときに視線が上に向く人は、Vタイプ傾向です。
【Aタイプの視線】
横に視線が動くときは耳の情報を捉えていて、文章を考えている最中です。視線が横によく動く人はAタイプ傾向と言えるでしょう。
【Kタイプの視線】
視線が下がっているときは、身体感覚を拾っています。考えごとをすると視線が下向きになる人は、Kタイプである可能性が高いです。
このように会話中、視線がどこへ動くのかを観察することで相手のタイプを推測することができます。
採用ミスマッチとディスコミュニケーションを防ぐVAK活用法
ーー採用ミスマッチが発生してしまう、大きな原因はどんな点にありますか?
採用ミスマッチの原因については一概に言うことが難しいですが、大きな原因の一つには、採用側が応募者の本質的な部分を理解できていないことです。
習熟している面接官であっても、客観的な判断や、相手の本質的な部分を短時間で見抜くことはとても難しい。面接官の経験値や価値観というフィルターを通して相手を見てしまうこともありますので。
ーー採用ミスマッチを防ぐため、どのようにVAKを活用すればいいでしょうか?
多くの採用が、経理なら経理経験のある人、営業なら営業経験のある人という風に、応募者が経験してきた業種、持っている資格、といった経歴を見て進める企業が多いと思います。
もちろん応募者の経歴を把握することも大切ですが、そういったポイントばかりを重視しすぎてしまうと採用ミスマッチが起きやすくなります。
そこでVAKを取り入れると、その業務にあった人材をきちんと判断して採用ミスマッチを減らすことができます。例えば、Vタイプは視点を切り替えるのが得意。いろいろな立場を想像してものごとを考えることができます。そういう能力がある人を採用したいときは、応募者がVタイプかどうかを判別するのが必要。
Aタイプの人は、細かい契約書のチェックなど細かい作業があまり苦にならないタイプ。細かい作業をする部署には、Aタイプの人を採用するとミスマッチが減らせます。
営業職だからといって、「ただ明るくて元気な人」を採ればいい訳ではありません。VAKを活用すれば、この人はどの仕事に向いているのか、この人の特徴を活かすにはどういったポジションに配属すればいいのか的確に判断できます。
ーー採用面接以外にも、社内の人間関係を良くするためVAKを活用できますか?
社員の皆さんがVAKを活用できると、「相手に対して誤解が少なくなる」、「相手のことをよりよく理解できる」といった効果を実感できるでしょう。
例えばレスポンスが速いVタイプと、レスポンスがゆっくりのKタイプが一緒に仕事をしていると、VタイプはKタイプの返事を待ちきれなかったり、もしくは何も考えていなかったりするように思ってしまうことがあります。
Kタイプからすると、Vタイプはコロコロ意見が変わったり、早とちりをしたりと軽率な人に見えがち。しかし、「この人はビジュアルで物事をとらえているから、話の展開が速いんだ」と理解していれば、無駄なストレスを軽減できます。
このように、それぞれがそれぞれの得意・不得意を認め合うことで、ディスコミュニケーションを防ぎ、社内の人間関係は良好になっていきます。
朝妻先生の人事コンサルティング
ーー朝妻先生が企業のコンサルティングをされる場合、どんなフローで行われるのですか?
はじめに「会社がどういう方向へ伸びていきたいか」をヒアリングして、採用したい人物像をしっかり定めます。面接が苦手な人事担当者は、相手を漠然としたイメージで見る傾向があります。「なんとなく明るくていい人」とか「なんとなく素直で伸びそうな人」といったように。これまでの経歴がずっと経理だった人が、必ずしも経理に向いているタイプとは限りません。そして、その人が心からやりたいと思っていた仕事が経理とも限りません。
心理カウンセラーの私は、応募者の表面的なところだけでなく、潜在的な部分を判断できる採用のお手伝いをしています。
ーー心理学とビジネスは、これからますます密接になっていきますね
最近は「働き方改革」を積極的に行う企業が増えています。しかし社内では「残業時間を少なくする動きはいいことだけど、これまでの仕事量を一体だれがするの?」というジレンマが発生。「働き方改革をやりましょう」と言われても仕事は減らない、売り上げを落とす訳にもいかない。本当に働きやすい環境になっている企業はとても少ないのが現状です。
そうなると、これまで以上に従業員の作業効率を上げていくしかありません。
心と脳の活動は、密接に関わっています。ストレス負荷が重くかかると、右脳と左脳の情報伝達の効率が下がり、いらない情報が頭のなかで渦を巻いてしまって、完全な情報を捉えることができなくなります。完全にリラックスをし、冷静に、大切なことを集中して行えるようにするためにも、各企業が従業員のメンタルヘルスについて考えることはこれからの時代、とても重要なことです。
人にプレッシャーを与えて目標達成をさせるのではなく、プレッシャーを除くことによって効率をよくする。従業員の心と脳を健康に保つ取り組みについても、ご相談に乗っています。
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